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先日某SNSを見ていましたら気になる記事を見つけました。

【ヨナ抜き音階の『ヨナ抜き』あるいは『四七抜き』という言葉は適切ではないので使わない方がよい】

というものです。記事を書いた方はその理由として以下の2点を挙げています。

1,五音音階は七音音階から2音抜けたものではなく、抜くという言葉はいかにも欠けたもののような印象を受ける。

2,そもそも『ヨナ』とは階名での『ファシ』の意味であるが、現在は『47』という4番目7番目の意味に使われることが多く誤解が生じている。

この記事を見た時、私も「確かにそうだな~」と思いましたが、それでも『ヨナ抜き』という言葉が無くなってしまうと、よなおしギターはそれを元にネーミングしたものですからとても困ってしまいます。

という訳で、今回は『ヨナ抜き音階』の語意について私なりの見解を書きたいと思います。

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五音音階は欠けた音階なのか?

これは完全に違います。

あくまでも五音音階は五音で完成している音階です。決して七音音階から2音を抜いたものではありません。そもそも、日本を含め世界の様々な地域で古くから五音音階が使われており、その意味では西洋の七音音階つまり『ドレミファソラシ』を主とする音階よりも主流と言えると思います。

ただし!私個人の意見としては、ヨナ抜き音階はそもそも五音音階ではなく、その成り立ちを考えると、その名の通り『七音音階から2音抜いた音階』だと思っています。

ヨナ抜きの語源となっているのは『ヒフミ唱法』だと言われています。

ヒフミ唱法とは、明治時代に定義された唱法で、ドレミファソラシを以下のように歌う方法です。

ヒー、フー、ミー、ヨー、イー、ムー、ナー

これは今でいう『ドレミ唱法(移動ド唱法)』にあたり、その言葉が表すのは『階名』です。

このヒフミ唱法のファとシにあたるのが『ヨーナー』となり、ファとシが無い音階なので『ヨナ抜き』と名前が付けられたと言われています。

で、この『ヨナ抜き』と名前を付けた人が誰でそれがいつなのか?については説明した文献が見つけられず分からないのですが、語源とされるヒフミ唱法を考えた人物は分かっています。

それが、あの伊沢修二です。

【西洋音楽が日本に入ってきて唱法に「ヒフミ」が使われた経緯】レファレンス協同データベースより


伊沢修二といえば、明治時代の文部省官僚で音楽取調掛の初代所長であり、後の近代日本の音楽教育の礎を築いた人物です。

当時の伊沢修二の音楽教育に対する考え方は徹底していて、それは『精神的にも身体的にも健全な国民の育成であり、ひいては大国に肩を並べることができる近代的な国となるべく日本を統治すること』にその目的が設定されていました。

その為、子供たちに教える音楽は西洋の音楽理論を基本とし、さらにその中でも特に『長調』にこだわった唱歌の作曲が行われました。

伊沢は、日本人好みの『短調』が子供の精神や身体をダメにする要因であるとさえ思っていたんです。

これら伊沢修二の考え方が今の基準でどうなのかは別として、そういった考えを持っていた伊沢がヒフミ唱法を定義づけし、それが元で『ヨナ抜き』という名前が付いたのであるとしたら、ヨナ抜き音階は『西洋の七音音階から2音抜いて作った下位版(簡易版)の音階』という解釈ができる訳です。

ではなぜ、下位版の音階を作ったかと言えば、それも当時の子供たちに西洋音楽を身に付けてもらう為ということに尽きます。

西洋の音楽理論が入ってくるまでの日本では、これこそ本当の五音音階で曲が作られ歌われていました。しかしその理屈は、西洋の理論とはだいぶかけ離れていて、子供に限らずほぼ全ての日本人が西洋の理論では歌が歌えなかったはずです。

つまり、西洋のドレミファソラシの七音で作られた歌は、当時の日本人にはとても難しかったんですね。その為、何とか日本の古の音階に近づけ、少しでも西洋の音階を歌いやすいようにするために考案されたのが『ヨナ抜き音階』という訳です

世界の民族音楽に使われる五音音階や日本の古の五音音階は決して西洋の七音音階の下位版ではありませんが、こと『ヨナ抜き音階』に限れば、それは西洋の音階をより分かりやすくするために七音音階から2音抜いて生まれた下位版であると言えるのです。

ただし、下位版として作られたこの『ヨナ抜き音階』は、その後現在に至るまでに非常に多くの名曲を生み出だしています。この辺りが、伊沢修二の功績の評価が分かれるところでしょう。つまり、当時の伊沢修二が行った無謀ともいえる施策とそれによって出来た音階の素晴らしさのギャップですね。


ヨナは階名か?順番か?

先ほどご説明したように、ヨナ抜き音階の『ヨナ』の語源となるのはヒフミ唱法だと言われています。

そしてこのヒフミ唱法は今でいう『ドレミ唱法(移動ド唱法)』ですから、その言葉が表すのは階名です。それが、冒頭でご紹介した記事を書いた方が仰るように、現在では『ヨナ』が4番目7番目という順番として使われることがほとんどで、そのことにより誤解が生じるというのです。

では、階名順番では何が違うのかを考えてみましょう。

以下に、ヒフミ唱法(昔の階名)、ドレミ唱法(今の階名)、順番の3つの方法で長調の音階を表してみます。

ヒフミ:ヒ フ ミ  ヨ  イ ム ナ
ドレミ:ド レ ミ フ ソ ラ シ
順 番:1 2 3  4  5 6 7

御覧のように、『ヨナ』はファとシであり、4番目7番目です。この表からは「ヨナ抜き音階は4番目のファと7番目のシを抜いた音階」という今最も多くされている説明に矛盾はありません

では次に、同じように短調の場合を表にしてみます。

ヒフミ:ム ナ ヒ フ ミ  ヨ  イ
ドレミ:ラ シ ド レ ミ フ
順 番:1 2 3 4 5  6  7


御覧のように、ヨナつまりファとシは4番目と7番目になりません。短調になると「ヨナ抜き音階は4番目のファと7番目のシを抜いた音階」という説明に矛盾が生じるわけです。

ここから分かるのは、ヨナ抜き音階の『ヨナ』をヒフミ唱法を語源とする階名と解釈するのか、あるいは4番目7番目という順番と解釈するのかで、短調で考えた場合はその答えが変わってしまうということです。

これは冒頭でご紹介した記事を書いた方の仰る通り、大変に混乱します。

そこで、この混乱を解決する方法を他に探してみましょう。

現在、ヨナ抜き音階と一緒に語られることが多い音階に『ニロ抜き音階』というものがあります。これは、ヨナ抜き音階をWikipediaで調べると出てきますし、googleで検索してもこの2つの音階が対のような扱われ方で登場する記事がとても多いんです。

で、そのニロ抜き音階の『ニロ』の語源は2と6、つまり2番目6番目という順番の意味で間違いないと思います。その根拠が…

二とロはヒフミ唱法には登場しない言葉だからです。

もしニロ抜き音階をヨナ抜き音階の語源と同じヒフミ唱法で表すなら、『フム抜き音階』になるはずです。

勉強不足でニロ抜き音階の『ニロ抜き』という言葉がいつ登場したのか分かりませんが、明らかに、ヨナ抜き音階が登場した後、しかも『ヨナ』を4番目7番目という順番と解釈したことによって生まれた言葉であるのは間違い無いでしょう。

結論を言いますと、『ヨナ』は確かに階名を表すヒフミ唱法がその語源となったかもしれませんが、ニロ抜き音階と対になって語られる現在においては、その意味が順番、つまり4番目7番目となっていると解釈するべきでしょう。

※『ニロ抜き』という言葉は、民族音楽学者である小泉文夫氏が1970年頃に提言していたことが分かりました。その時には、小泉氏も『ヨナ』を階名ではなく順番と解釈しています。(参考文献:小泉文夫『歌謡曲の構造』)


この混乱が生じた要因には、やはり伊沢修二が関係していると、私は思います。

西洋の音階を勉強するのに非常に適しているドレミ唱法を日本に取り入れる時、異国の言葉であるドレミでは子供たちには難しいため、日本の言葉である『ヒフミ』を使いました。これが同時に数を数えるための言葉であったため、後に『ヨナ』が順番を表すと誤解されたのだと思います。

ドレミのミとヒフミのミの発音が偶然にも同じだったため、伊沢修二は『ヒフミが最適だ!』と思ったかもしれません。また、現在の言葉でも『ヨナ』は4と7を表す言葉として語呂がイイので余計に混乱するわけです。

さらに、記事の途中で伊沢修二が『長調にこだわった』と書きましたが、あまりに長調にこだわった(短調を軽視した)ために、ヒフミ唱法を短調にした時の違和感、つまり、短調が『ム』という6を表す言葉から始まることに対してそれほど気に掛けなかったのかもしれません。これは、数字譜が同じ原理(短調の音階は6から始まる仕組み)で出来ていますから、当時どの程度数字譜が認知されていたかにもよりますが…

いずれにしても、この辺りは完全に私の想像でしかありません。ただ、現在ヨナ抜き音階の『ヨナ』は4番目7番目という順番を表す言葉として使われていて、その方が混乱が少ないということは間違いが無いでしょう。


ヨナ抜きという言葉は不要か?

最近では、曲がヒットする要因としてのヨナ抜き音階がクローズアップされるようになり、かなり知られるようになりました。そのことで、この音階が日本人が遥か昔から慣れ親しんでいる音階であるという誤解が生じているように思います。

中には「『君が代』はヨナ抜き音階で作られている」という記事も見かけます。

そういう日本の古の五音音階と混同した『ヨナ抜き』の使い方は、私も不要だと思います。

この音階が出来たのは明治以降です。作られた理由も使われ方も明確に定義され生まれた音階です。少なくとも、明治以降でその定義にのっとり使われている場合のみ『ヨナ抜き』の言葉を使うべきでしょう。

私は、よなおしギターの名前の由来となったこの音階の説明を、これまで非常にたくさんしてきました。それは、以下のような説明です。

『ヨナ抜き音階は、ドレミファソラシから4番目のファと7番目のシを抜いた音階です。』

これは、ヨナ抜き音階の成り立ち、つまり『西洋の音階である七音音階から2音抜いた簡易的な音階であり、西洋の理論を使って長調の曲を作るための基準とした』という、当時の唱歌を作った時の考え方やそれにより政府が何を目指していたかという歴史を一文で表した解説とも言えます。

『ヨナ抜き』という言葉は、日本の近代音楽教育の歴史が詰まった言葉であり、これからもずっと残すべき言葉だと思うのです。


日本の近代音楽教育について私見ですが以下の特集でも書いています
【ヨナ抜き音階と日本の音楽教育 全12記事】
(一)近代教育の開拓者 伊沢修二
(二)近代音楽教育が目指したゴール
(三)伊沢修二の実験と理屈
(四)長調への拘りと体操教育での経験
(五)たどり着いた答え『呂音階』
(六)呂音階の推進を後押しするもの
(七)集大成『小学唱歌集』に見られる拘り
(八)伊沢修二に対する批判と民謡音階
(九)伊沢修二とヨナ抜き音階が残したもの
(十)童謡『赤とんぼ』の解析
(十一)『パプリカ』の解析
(十二)そして、よなおしギターへ


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