『ヨナ抜き音階と日本の音楽教育09』

日本の伝統よりも大切な目的

これら伊沢修二の『日本と西洋の音階を同じものとした』ことと『呂音階を音楽教育の柱とした』ことに対する批判は確かにもっともな部分が多く、前者は、私などが見てもかなり強引な理屈である。後者に関しては、前回の記事で書いたように最初の唱歌集には呂音階に対する拘りは見られないが、後述するように、特に低年齢の児童向けには呂音階は多用されている。

ただ、私がこの記事で当初から述べているように、伊沢がこの2つの結論に至ったのは、純粋な日本音楽の研究からではなく勇壮活発な国民の育成がその最大の目的となっていたからである。

何度も言うように、伊沢自身は幼いころから日本の楽器を習い習得していたわけではない。他方、一緒に研究をし後に伊沢の主張を否定した上原六四郎は尺八の大家だった。その日本の伝統音楽への拘りは伊沢のそれと比べモノにならなかっただろう。

伊沢が日本古来の5音音階を、主音を曖昧にし無理やり音を導き出してまで西洋の7音音階と比べたのは、西洋の音階と同じことを証明したかったのと同時に、その音階が西洋的に短調なのか長調なのかを導き出したかったからというのもあるだろう。

結果として、日本の音階は呂音階以外総じて短調になってしまうという結論につながった。(当時琉球音階は研究対象になっていない)

もちろん日本の伝統音楽に対するリスペクトはある上で、それでも強く推し進めたのは『子供に長調を習わせる』ことでありその目的は一貫して『勇壮活発な国民を育てる』ということなのだ。


呂音階からヨナ抜き音階へ

これまで、この記事では伊沢修二が明治以降の音楽教育の柱とした音階を『呂音階』と表記してきたが、以後は『ヨナ抜き音階』と表記する。

両者はどちらも5音音階で、構成する音も全く同じドレミソラだ。ただし、日本の古来から伝わる呂音階と、伊沢が推奨したドレミソラの音階は明らかに性質が違う

例えばメロディの最後の音となる終止音。伊沢修二が理解に苦労したように、日本の音楽は同じキイの中で終止音が複数存在し一定ではない。仮に呂音階で作られたメロディならレやソで終始する場合が多く、それが日本人には最もしっくりくるのだ。

他方、伊沢が推奨した音階は、ほぼメロディの終わりは主音、つまりドで終わる。これは、西洋音楽では常にコード(和声)と共にメロディが存在し、ドミナント→トニックとコードが終わりを迎えるのと同時にメロディは主音で終わるのが最も安定した終わり方になるからだ。

勇壮活発な国民を育て近代的国家となるべく日本を統治するため、多数の人間が音やリズムの狂いなく奇麗にそろって歌う必要がある。その為には伴奏が必須だ。伊沢修二が推奨するドレミソラという音階で作る曲も、オルガンなどによるコード伴奏で歌われるのを前提としていたであろう。

他方、古来の日本音楽はそもそもコード伴奏という概念がない。

終止音が主音で終わるのもコード伴奏が前提なのも、ヨナ抜き音階が日本的な呂音階とは明らかに性質が異なり西洋のドレミファソラシという7音音階から単にファとシが抜けただけの音階という性質を持つことを意味している。

それこそが、ヨナ抜き音階の名前の由来なのだ。

欧米の音階でメジャーペンタトニックスケールというものがある。略してメジャーペンタと言われるこの音階は、ロックやポップスなど様々なジャンルで初心者でも簡単にメロディを作ったり楽器でアドリブが演奏できる非常に便利で汎用性の高い音階だ。このメジャーペンタは、ドレミファソラシからファとシを抜いた5つの音、つまりヨナ抜き音階と同じ構成音で出来ていて、常にコード進行の中でメロディを作っていく。

ヨナ抜き音階の性質は、呂音階よりも圧倒的にメジャーペンタに近いと言ってよい。


伊沢修二とヨナ抜き音階が残したもの

実は、伊沢修二自身も唱歌を作曲している。今手元に伊沢作曲の唱歌が13曲あるが、その中で純粋にヨナ抜き音階だけで出来ているのは8曲だ。それらの曲は全て長調でキイの主音でメロディが終わっている。そして、そのほとんどが幼稚園から小学校低学年用の曲、つまり西洋音楽の入門的な曲という位置づけだ。

伊沢修二は、ヨナ抜き音階を西洋音楽の入門的な位置づけとしたのは間違いないだろう。何でもかんでもヨナ抜き音階だけで済ませようとした訳ではなく、あくまでも低年齢の児童たちにこの音階を使って西洋音楽を身に付けるための基礎を学んでほしいと思ったのだろう。

そこには、伊沢修二の『物事を分かりやすくする』というスバ抜けた才能が関与しているのは明らかだ。

音楽取調掛が創設されてから140年経った今、もうすでに日本には伊沢修二たちが試行錯誤してその礎を作った文部省唱歌を習っていない人は無い。今の全ての日本人にとって、産まれた時から唱歌が存在していた。そしてその唱歌はシンプルな音構成ほど多くの人の記憶に残りやすいだろうし、幼児から小学校低学年ぐらいまでは歌う時間が多い可能性は高い。

唱歌がヨナ抜き音階で作られているというより、ヨナ抜き音階で作られた初歩的な唱歌の方が記憶に残りやすいとも言えるのかもしれない。

それら多くの人々の心に残る唱歌は、全ての年代の人が歌うことが出来、歌えば昔を懐かしみ、あるいは元気になり癒される。また一方で、日本人は西洋音楽の理論を基盤に多くの国の音楽をどん欲に取り入れ、自分たちなりのJ-POPを作り上げた。

それらは全て、伊沢修二が音楽取調掛の所長に任命されてから始まったのは間違いのないことなのである。

次の記事へ⇒(十)童謡『赤とんぼ』の解析

【ヨナ抜き音階と日本の音楽教育 全12記事】
(一)近代教育の開拓者 伊沢修二
(二)近代音楽教育が目指したゴール
(三)伊沢修二の実験と理屈
(四)長調への拘りと体操教育での経験
(五)たどり着いた答え『呂音階』
(六)呂音階の推進を後押しするもの
(七)集大成『小学唱歌集』に見られる拘り
(八)伊沢修二に対する批判と民謡音階
(九)伊沢修二とヨナ抜き音階が残したもの
(十)童謡『赤とんぼ』の解析
(十一)『パプリカ』の解析
(十二)そして、よなおしギターへ


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