伊沢修二に対する批判
少なくとも『小学唱歌集 初篇』の歌詞以外の部分を見ると、それはまるっきり西洋音楽の教科書であり、しかもかなり良く出来た教則本だ。そこに、ドレミソラという音階(呂音階)に拘った形跡は全く見られない。逆により明確になるのは、日本と西洋の音楽は同じという大義名分の元に行われる西洋音楽教育と長調の曲による国民育成への強い拘りなのである。これは、初篇につづく第二篇と第三篇も、終止音が主音以外の曲や短調の曲がいくつか出てくるが、基本コンセプトは同じと言ってよい。このような形で具現化されていった伊沢修二の日本音楽に対する理屈や日本音楽教育の礎は、後にかなりの批判を受けることとなる。
その中で恐らく最初期かつ決定的だったのは、音楽取調掛のスタッフとして伊沢と一緒に研究を行っていた上原六四郎による否定だろう。上原は日本の俗楽に対する自身の研究結果を明治28年に『俗楽旋律考』として発表し、その中で「音楽取調掛で一緒に研究していた当時は伊沢氏と同じ見解だったが、伊沢氏が主音の位置を明確にせず日本の俗楽の音階と西洋の7音音階を同一のものとした研究結果は間違いであった」と述べている。
その他の研究者による批判も『日本の音階と西洋の音階を同じものであるとしたこと』に集中する。
日本の音楽、とくに民衆に親しまれ続けている歌に使われる音階は5音音階だ。これは多くの研究家が認めるところで、日本の音階研究において画期的な理論とされる『日本伝統音楽の研究』の中でも著者の小泉文夫氏が述べている。
明らかに5音からなる音階はどうこじつけても西洋的な7音音階と同一視することは出来ないのだ。
更に、呂音階の使用に関しても『日本人にとって呂音階は歌い難い』という批判があがる。
呂音階はそもそも貴族層が嗜んだ雅楽からきている。しかも、中国から入ってきた呂音階は日本に合わず次第に衰退し律音階の方がより使われていったという。一方、庶民が歌い親しんだのは俗楽で中でも民謡やわらべうたがその中心である。その中にあって、子供たちと最も距離のあるジャンルといえる雅楽のしかも廃れた音階を教育の材料として使うのはいかがなものか、という批判だ。
これは前出の小泉文夫氏も主張する「日本の音楽教育はわらべうたから始めるべきだ」という『わらべうた運動』を推奨する人たちから多く聞かれる批判である。
小泉氏は著書『日本伝統音楽の研究』の中で、日本には4度(ドとファ)を核音とした3つの音からなる重要なグループが4つあるとしている。(下図参照)
※五線譜は音と音の距離が分かり難いので私の教室で使っているスケールグラフでの表記も載せておく。
※それぞれの3音は鳴らすと次のようになる。(▷をクリックすると再生されます。音量が大きいので注意!)
この中で民謡やわらべうたに使われるのは①のグループである。
さらにこの①グループの3つの音を2つ繋げたのが民謡音階だ。民謡音階は1オクターブに5つの音(ドミ♭ファソシ♭)がある5音音階である。(下図参照)
学校においての音楽教育で日本の子供たちが古来から親しんでいるわらべうた、あるいは新しく作曲するにしてもこの民謡音階を使えば、学校での音楽がもっと楽しいものとなり落ちこぼれる生徒も少ないだろうというのが『わらべうた運動』の原動力の1つとなっている。
それに比べ呂音階は、ファが無いため民謡音階どころか4度(ドとファ)を核とした日本人にとって大切な3音がどれも築けないのである。
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【ヨナ抜き音階と日本の音楽教育 全12記事】
(一)近代教育の開拓者 伊沢修二
(二)近代音楽教育が目指したゴール
(三)伊沢修二の実験と理屈
(四)長調への拘りと体操教育での経験
(五)たどり着いた答え『呂音階』
(六)呂音階の推進を後押しするもの
(七)集大成『小学唱歌集』に見られる拘り
(八)伊沢修二に対する批判と民謡音階
(九)伊沢修二とヨナ抜き音階が残したもの
(十)童謡『赤とんぼ』との解析
(十一)『パプリカ』の解析
(十二)そして、よなおしギターへ
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